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灸点治療法(按摩の心得)市石 喜代治 (後編)

「鍼灸真髄」にあって「灸点治療法」にないもの
「鍼灸真髄」にあって他の本にないものと言った方が正しいでしょうか?
鍼灸真髄は今まで半世紀売られ読まれ続けてきました。日本で一番売れている鍼灸書と言っても間違いないでしょう。私がみても素晴らしい数人の臨床家からこの本を読むように薦められました。この本には不思議な魅力があって、学生には学生のレベルで教えられるものがあり、鍼灸師になるとまたそのレベルに応じて教えられるものがある。そして臨床経験をつんで、時々ふと、思い出して読み返すと、また思い知らされる事があると。
(某漫画に瞳術のレベルに応じて読める内容が変わる石版が出ていますが…)

 日本の鍼灸師の歴史上、かなりの達人である沢田健の口述筆記であるがゆえか?はたまた代田文誌の筆の妙というか?「鍼灸真髄」真髄と題した理由もわかります。

それと最近、「鍼灸真髄」の良さとしてこのような事があるのではないか?と思うのです。

 「東洋医学の理論を実現する方法を述べた本である」と。

 1年次に鍼灸の偉大なる古典「難経」に挑戦しました。全然意味がわかりませんでした。三年生になって、なんとなくわかる部分も出てきました。(ほんの序の口でしょうが)ちょこっと難経など読めるようになると、沢田健が適当な?ことをしゃべったのではなく、東洋医学に基づいてしゃべっていると思うようになったのです。

沢田健は、十四経発揮、和漢三才図会、難経鉄監、さらに松元四郎平の鍼灸孔穴類聚、三谷公器の学説を重んじたようです。それら死せる書物を生ける人間に当てはめようと苦心した人です。お灸の上手いおっちゃんが適当なこといっとるのではなく、澤田健は東洋医学の応用に成功した稀有な存在なのではないでしょうか?

 もちろん、澤田健は東洋医学の真髄である、と言うつもりはありません。ですが澤田健は東洋医学の一端である、ということは、言えると思います。

 理論と実践がかけ離れていることは、鍼灸に限らず、ビジネスなどでも言えるのではないでしょうか?日々の生活においても、理論と実践のギャップに多くの人が苦しんでいるでしょう。

鍼灸の古典で、○○の症状の時は、ここにお灸を○壮すえる、または鍼をどれだけ刺す、と書かれている古典もあります。ですが「素問」「霊枢」「難経」ら治療哲学について書かれた古典ををそのまま、治療に応用するのは至難の業です。江戸時代の鍼灸師も、沢田健も、柳谷素霊も岡部素道も井上恵理もそして今生きる現役鍼灸師達も悩む所ではないでしょうか?
澤田健はとりあえず、東洋医学の理論と実践に成功した人であり、そのヒントが「鍼灸真髄」に書かれていると思えるようになりました。東洋医学の応用の仕方について書かれたのは「鍼灸真髄」他、数冊しかないとおもっています。
(鍼灸真髄しかないとは敢えて言い切りません)

 現在の私は沢田流に燃えるわけではなく、沢田流、深谷灸法を経て経絡治療に進んでいます。首藤傳明先生は似た境遇で進んでいますが、首藤先生の研究会に所属しているわけではありません。

沢田流を復元しようとする気も毛頭ありません。ただ、偉大なる鍼灸人、沢田健に敬意を称したいのです。また、OD版として経絡治療の本で絶版になったものが多数復活しています。閃光記という代田文誌先生の本が復活しています。

出来れば、沢田流の本ももっと多数復活するとよいという考えはあり、ひょっとしたら動くかもしれません。

「灸点治療法」は1989年に出版され、その一年後「鍼灸極秘抄」がたにぐち書店から出版されています。「鍼灸極秘少」を初めて読んだのは、小学校5年生でしょうか。この頃は喘息で悩んでいた頃です。もし、極秘抄でなく、灸点治療法をこの時点で読んで、鍼灸ってすごい、と感じていたならば、また違った人生を歩んでいたでしょう。
出版された年号を見て、ふと思いました。また、灸を愛した我が家系の蔵書にこの本があっても良かったでしょう。家宝の扱いをしています。

 もし、灸点治療法を幼少期に読んで、鍼灸師になられた方がいたならば、どんなにすばらしいことでしょうか?

 言い訳のつもりで書くわけではありませんが、私は現在鍼灸学生です。臨床家から観れば、全く臨床を知らないバカが書いていると思うでしょう。事実、自分でもそう思います。数年すれば、ここに書いた事が恥ずかしくなって書き換えることになると思います。「言う者は知らず 知る者は言わず」を貫けば、私は恥をさらすことにはならなかったでしょう。
 ですが、鍼灸学生のうちに、鍼灸学生だから書けることを、今、このタイミングで敢えて書きます。鍼灸バカがいるんだな、と安心する方も多いと考えているからです。私もブログを他に数年運営してきました。ここに書いた言葉は責任を持って書いています。それなりに覚悟を持って書いたことをここに記し、この連載を終えることとします。最後にもう一つ「この本、灸点治療法に出合えてよかった」長文を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
                                            再 拝

以下参考文献等


灸点治療法
灸点治療法

鍼灸眞髄―沢田流聞書
鍼灸眞髄―沢田流聞書

鍼灸治療基礎学 改訂増補第7版―十四経絡図譜解説
鍼灸治療基礎学 改訂増補第7版―十四経絡図譜解説

図説 深谷灸法
図説 深谷灸法

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お疲れ様です。

長らくの連載、お疲れさまでした。

「鍼灸真髄」と「灸点治療法」の違いは相当あるのですね。
代田先生なら代田流の、市石先生なら市石流の沢田流があるんですね。

それに、臨床レベルで読み方が違ってみえるというのは分かる気がします。「灸点治療法」と「鍼灸真髄」の違いがあるのもここに関わってくるのでしょう。

過去の人が残したものというのは大きな財産だと思っています。僕が古典を学びたい理由もそこにあります。特に古典だと、何百年も前に書かれたものでも途切れることなく脈々と伝わってきたものであるので、中には古臭いものといって倦厭する人もいますが、僕は立派な治療の真髄が書かれてあると思っています。

最近調べ事があり、『素問』と『霊枢』を見直す機会があったのですが、一通り読んでいたはずなのに色々な発見がありました。やはり何回も読みなおさないと身につかないですね。澤田健先生みたいに、ひとつの古典をよく読むというのも大切だと思いました。

ODに代田先生のものもあるのには気がつきませんでした。
僕が常々疑問に思っていたのは、沢田流は有名にも関わらず、書籍のほとんどが絶版であるということです。沢田流の本はかなりあったようですが、今は「灸点治療法」と代田先生の著作がいくつか残っているのみ。
ODに代田先生のものがあるのは、他の沢田流の書籍も復刊する可能性は高いと思います。確実に受容はあるでしょうから。復刊したら僕は買ってしまうでしょうけどね。

「灸点治療法」の著者について

連続の書き込みですみませんが、「灸点治療法」の著者について分かったことがあるので報告します。
結論からいうと、市石 喜代治先生という方は、市石 圭佑先生で間違いなさそうです。

実は僕の学校の図書室に「灸点治療法 あん摩の心得」が置いてありまして、その発行日が昭和41年5月25日となっていました。つまり今出版されているよりも前のものですね。

その貸出カードの中では、著者:市石 喜代治(堀内 亀蔵)となっていたので、「ひょっとしたら堀越亀蔵先生の別名もしくは共著?」と思ったので本の著者を確認すると、やっぱり市石 喜代治の名前しかありません。
おかしいので司書の方に「括弧書きになっているのはどういう意味ですか」と聞きまして、いろいろ調べてもらいました。

すると市石 喜代治は堀内 亀蔵とは別の人らしいということなので、何らかの理由で一人しか名前が挙がってないけれども、共著ではなかと言われました。

また、品川区鍼灸学会のHPの中の「品川鍼灸師小史」というページから引っ張ってきてもらったものに、

>(3)第三代会長は市石喜代治先生
>第三代会長の市石喜代治先生は圭佑と号され、昭和25年10月から昭和31年4月まで会長を務められました。
>市石先生は沢田流の重鎮で、昭和7.8年頃に沢田健先生の弟子となり、目黒駅から白金方向に少し行ったところで灸専門で治療をされていました。
>頑固一徹な方でなかなか譲らない明治生まれの性格だったそうです。
>また、お灸療法を記したたくさんのご著書があります。
>昭和25年10月1日に東京鍼灸師会が設立され、昭和25年10月15日に日本鍼灸師会が設立されました。
>二代目会長の作田先生と三代目会長の市石先生は、東京鍼灸師会と日本鍼灸師会の要職を兼任され、現在の東京都鍼灸師会と日本鍼灸師会の礎を築いたお一人といっても過言ではありません。
http://harikyu-shinagawa.com/about/historyより抜粋)

と書かれてあるのを見つけてまらいました。
つまり、市石 圭佑というのは号での名前で本名は市石 喜代治ということになります。
というわけで同一人物でした。

司書さんに感謝です。

Re: お疲れ様です。確かに疲れました

 ちょっとこの連載は「痛みに耐えてよく頑張った!感動した!おめでとう!!」小泉元首相張りの絶叫モードですので、気楽に読み流せるまとめ記事も書かないとな、と思う次第。

 沢田流のお弟子さんが共通の治療論持っているわけではなく、それぞれ試行錯誤して、それぞれに到達したものがあるわけですから、違って当然ですが、僕はその治療者の「アジ」としてとらえています。

「過去の人が残したものというのは大きな財産」まさにそれですね。僕なんかも古典重視派になるのでしょうが、古典って、あほな人が書かれたものではなく、凄まじいほど頭がきれて、臨床にとてつもない力を発揮した人が書かれていないと、古典とみなされず、自然淘汰されますから、読んでいても身にしみます。そして敬愛の念が生まれてくる。古典=難経という人は多数おられますが、僕の場合は古典=江戸古典「鍼灸重宝記」「名家灸選」等なのですね。
現代人にも使える治療のヒントたくさんあると思います。

 既に沢田流の本が古典の分類にはいるのは、寂しい面もありますが、これで50年先も読み継がれる名著なんだな、と嬉しい面もありますね。

 沢田健が書物を何百回と読んだ、その前例を持って書物は何百回でも読みなさい、という教師がいました。別の教師はそこまでいく必要は無く、目次が無くともすぐ開けるくらいは読み込まないと、といっていました。僕は後者の立場です。ですが暇なときに読み流す程度でも、1年間に何百とまでいかなくとも、かなりの読書量にはなりますね。

沢田流文献の少なさ

実は僕もこれはおかしいじゃないか?と思っていたところです。読める沢田流文献は代田先生がほとんどで、こんにち「灸点治療法」が日の目を見たようですが。

OD版、経絡治療系は多いですね。版元が日本の医道で原稿がしっかり保存されているというのもあると思います。それに対して沢田流は…

OD版作るにあたって、読者のリクエストというものがあります。これを使って、ダメで元々という気持ちで、何か書こうと思っています。

Re: 「灸点治療法」の著者について

貴重なご指摘ありがとうございます。ってゆうかここまで調べられたとは凄すぎ

僕も某図書館に「灸点治療法」(堀越亀蔵)版がある事を知って、三月あたりに、図書館に乗り込もうと思っています。コメント欄でかかれたことで、間違いないとおもいます。

長々書くと、逆効果かな?

 ブログに載せてもいいくらいの貴重なコメントありがとうございますね。
プロフィール

やいと屋 知足斎

Author:やいと屋 知足斎
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幼少の時より喘息などに苦しみ、健康雑誌、東洋医学の世界に入り込む。中学時は三国志の影響で中国の古典に興味を持つ
大学は法学部に進むが鍼灸の夢、捨てきれず近くに鍼灸新設校ができたきっかけで、三十路目前に入学
曾祖母が家伝灸の使い手で、その影響で灸の研究、研鑽を積む毎日
趣味は民俗学研究 だが今は鍼灸に専念する為に封印
家伝灸研究も最近は趣味になりつつある
1年次より中医学の勉強会に通い、3年次は経絡治療も学ぶ。
長野式また撃鍼(打鍼)法
積聚(しゃくじゅ)治療の研究も進めている

平成二十二年三月鍼灸師合格 四月 鍼灸師登録
やいと屋として奮闘中

ナード・アロマテラピー協会認定
アロマ・アドバイザー

キネシオテーピングトレーナー

覚王山鍼灸研究所 研究員

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